「で、仕事には慣れたの?」
麗子は前置きもなく、美久に尋ねる。回りくどい話はせず、常に結論から入り、ストレートな表現を使うのが、麗子の特徴だ。周囲からも、分かりやすくていい、という一方で、礼節がないと揶揄されることもあるが、当の本人は気にも止めておらず、スタンスを変えない。
突然、直球な質問をされた美久は慄き、
「キャンディデイトの期待に応えられるように、まだまだ足りないことがたくさんです…」
と、応える。
麗子は美久の答えを聞いていたのか、続けて、
「質問が悪かったわね、仕事は楽しい?」
と矢継ぎ早に問う。
美久は手に取ったワイングラスを置けないまま、
「楽しいですよ、私、人のお役に立てることがずっとしたかったですから…」
と、今後は本音が出たと美久自身も思えた。
「そうね、あなたが誰かに期待され、そしてその期待に応えることに喜びを感じているのは、よくわかるわ…仕事でも恋愛でもね…」
麗子がそう話すと、美久は何も言えず、ワインを数度口に含む。麗子はすかさず、ソファーに美久と横並びに腰掛け、美久を促すようにワインを注ぐ。
「美味しい?」
と麗子が問うと、美久はまたワインを数度口に含んだ。すでに顔も赤らみ、目も涙目になっている。
「あなたは、人に迫られると抵抗できない人…相手の期待に応えたくなるし、応えないと相手が失望するのではないかと、いつも怯えている…それが本当のあなた…」
麗子はそう言うと、美久の耳を覆うように右手を顔に添え、そっと美久にキスをした。唇が触れるか触れないかぐらいにそっと…
キスをした瞬間は反射的に目を閉じた美久だったが、唇をすぐに離すと、大きく目を見開き麗子を見つめる。麗子は考える隙も作らせないようにまたそっとキスをしては、すぐに唇を離し、そしてまたキスをする。
数度繰り返すと、美久の目元はトロンとし、麗子の顔が近づくと、反射的に唇を突き出し、目を閉じる。
「やっぱりあなたは求められると、なんでも受け入れるのね…」
麗子が冷たくそう言うと、
「いえ、そんな…」
と美久は反論するが、言葉を発する前に、麗子は今度は深く口を封じ、互いに顔を傾け、舌を絡める。麗子は、美久が抵抗する様子もなくキスに呼応し出すと、今度はブラウスの上から、美久の胸に触れ始める。キスと同じように触れるか触れないかくらいに、そっと、ゆっくりと…