長瀬亜紀、25歳、航平の彼女である。大学4年の夏から航平と付き合い始め、4年経つ。当時は大学ミスコンで、ミス一橋大学となった亜紀だったが、その整った顔立ちだけが理由ではなく、活発であり人懐こい性格も含めて、周囲の高嶺の花だった。そんな亜紀が航平と付き合い始めたきっかけは、同じ大学体育会本部での接点だ。
航平は野球部の、亜紀はチアリーディング部のキャプテンであり、体育会本部の会合でよく顔を会わせる間柄であった。おまけに野球部の応援には、チアリーディング部が付きものであり、自然と会話をする機会も多い。極め付けは、丁度部室が隣にあったことで、その頻度は高まった。
亜紀は、自分とは違い、飄々とキャプテンを務める航平を一目見たときから、興味深く思っていた。自身もチアリーディング部のキャプテンを務めていたが、自分のしたいことと、部の現状とのギャップに悩み、またその悩みを誰にもあかせずにいた。
初めて航平と会話をしてから3カ月ほど経った夏のある日、うかない顔色の亜紀に気づいた航平が、声をかけてくれる。
「どうした?いつもの顔と違うぞ?」
亜紀は自分の悩みに察知してくれ声をかけてくれる航平に好意を抱いていた。それは恋愛感情と友情との狭間にある感情だったが、かえって過度に緊張することもなく、気兼ねなく話せる間柄が心地よかったのかもしれない。
「ねぇ、今日二人で飲みにいかない?」
と、航平を誘うと、航平も一友人として、男女を意識することなく、承諾する。亜紀にとってこの関係性が心地よくもあり、一方で一歩踏み出すきっかけがないか、歯がゆさも感じていた。
互いの部活が終わった夕方後、大学の正門で待ち合わせし、一橋大学御用達の焼き鳥屋に向かう。
ともに体育会系ともあって、食事もお酒も一般的な大学生と比較すると、大食漢なのであろう…特に亜紀は女性としては、ましてやミス一橋とは思えないほど、よく食べそしてよく飲んだ。特にお酒はというと、ビールを数杯飲んだ後から、焼酎に移り、その量や飲む早さは、体育会系男子ともひけを取らない…。
亜紀は自分が抱える悩みを切り出すタイミングをうかがっていたが、なかなか切り出せずにいた…