【小説】社内恋愛

今時の社内恋愛をテーマにしたオムニバス小説

【社内恋愛】夏目美久(28歳)の場合 vol.9

 「で、仕事には慣れたの?」

 

麗子が前置きもなくストレートに尋ねたので、いけない妄想に耽っていた美久は慄き、

 

「キャンディデイトの期待に応えられるように、まだまだ足りないことがたくさんです…」

と、杓子定規な答えしか出てこない。

 

美久の答えがつまらなかったのか、麗子は

 

「質問が悪かったわね、仕事は楽しい?」

 

と矢継ぎ早に続けて問う。

 

美久は手に取ったワイングラスを置けないまま、一口ワインを含み、

 

「楽しいですよ、私、人のお役に立てることがずっとしたかったですから…」

 

と、今後は本音が出たと美久自身も思えた。

 

「そうね、あなたが誰かに期待され、そしてその期待に応えることに喜びを感じているのは、よくわかるわ…仕事でも恋愛でもね…」

 

麗子が含み笑顔でそう話すと、美久は「全て見透かされている」と思った。「この人は私の恋愛依存も、もしかすると今勝手な妄想で感じてしまっていることも、全てバレている」と、そう思うと、美久は何も言えず、胸がギュッと押し潰される感覚になり、たまらずワインを数度口に含む。

 

麗子はすかさず、ソファーに美久と横並びに腰掛け、美久を促すようにワインを注ぐ。

 

「美味しい?」

 

と麗子に問われると、美久はまたワインを数度口に含んだ。喜び、緊張、胸の高なり、押し潰される感覚、破廉恥、妄想…そしてワインが回ったのか、様々な感情や考えが、頭や体を駆け巡る。顔は赤らみ、心臓は心拍数が上がり、そしてもは漏らしたかのように濡れている…目には涙すら浮かんでくる。

 

その感情を見透かしたかのように、

 

「あなたは、人に迫られると抵抗できない人…相手の期待に応えたくなるし、応えないと相手が失望するのではないかと、いつも怯えている…それが本当のあなた…」

 

と、麗子はそう言いながら、美久の耳を覆うように右手を顔に添え、そっとキスをした。唇が触れるか触れないかぐらいにそっと…

 

キスをされた瞬間、美久はまるで期待していたかのように反射的に目を閉じ、唇を離すと、大きく目を見開き麗子を見つめた。そしてそっとキスをされては、すぐに唇を離し、そしてまたキスをされる。男のそれとは異なり、柔らかく、そして心地がいい。

 

キスを数度繰り返されると、美久は今までの妄想を実現するように、麗子の顔が近づくと、反射的に唇を突き出し、目を閉じる。

 

「やっぱりあなたは求められると、なんでも受け入れるのね…」

 

麗子が冷たくそう言われると、恥ずかしく、

 

「いえ、そんな…」

 

と反論しようとするが、言葉を発する前に、麗子が深く口を封じ、互いに顔を傾け、舌を絡めてくる。「もう我慢出来ない…」美久がそう思っていると、麗子は、ブラウスの上から美久の胸に触れ始める。キスと同じように触れるか触れないかくらいに、そっと、ゆっくりと…

 

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