【小説】社内恋愛

今時の社内恋愛をテーマにしたオムニバス小説

【社内恋愛】夏目美久(28歳)の場合 vol.8

入社し半年経ったくらいだろいか、ある日、美久は麗子に自宅に誘われる。美久にとって麗子は面接で採用してくれた恩師であり、他の女性社員同様憧れの存在である。その憧れの麗子から自宅に誘われたとあって、美久は飛び上がるくらいに嬉しく、まるで好きな男の自宅に初めて訪れるのと同じ気分になる。その高なりは前日から期待と緊張があり、自分でも可笑しいと思ったが、男の自宅に行く前日と同じように、入念に体を洗い、無駄毛の処理までしてしまう。美久にとっては、恋愛感情と同じ感情が体中を駆け巡るのだ。

 

麗子の自宅は、みなとみらいに立つマンションの高層階にある。部屋に招き入れられると、美久はまずリビング全面に大きく広がる窓に映る夜景に興奮する。西側に目を移すと海が広がり、点在する船の灯りがノスタルジックで、美久はついつい惚けてしまう。これが男の部屋であれば、このシチュエーションだけで、欲情してしまうだろうと妄想に耽っていると、麗子が美久を背後から抱きしめるように肩に腕を回す。

 

美久は、麗子にとっては普通の行動なのだろうに、自分が勝手にドギマギしていることに、恥ずかしくなった。勝手に意識し、胸が高なり、濡れている…そして止めようとしても、益々高まる欲情を止められずにいる。

 

麗子に耳元で、

 

「いつまでも眺めていないで、ワインにしましょう…」

 

と囁かれると、また鼓動が早まり、止め処なく濡れていくのが、自分でもはっきりとわかる。

 

麗子が何も無かったかのように、アイランドキッチンに戻り、シャンベルタンの赤ワインとバカラのワイングラスをリビングにあるローテーブルに用意する姿を、美久は目で追ったが、麗子は目をあわせない。美久は自分でもおかしくなってしまったと思うが、麗子を意識する気持ちは、男を意識するそれと全く一緒で、破廉恥な妄想が止まらない。

 

麗子が、チーズと生ハムをHERMESの小皿に盛り付け、リビングにまた戻ると、

 

「どうしたの?」

 

と、不思議そうに見つめられる。それだけで気持ちが張り裂けそうなのに、小皿を手渡す際に、指と指が触れたことに過敏に反応してしまう。

 

「乾杯しましょ、あなたの今後の活躍に…」

 

麗子がそう言い、ワイングラスを軽く合わせると、高く上品な音色が、部屋に鳴り響いたが、美久にはその音色が、自分の倫理が崩壊していく合図に思えてならなかった…

 

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