【小説】社内恋愛

今時の社内恋愛をテーマにしたオムニバス小説

【社内恋愛】千葉麗子(36歳)の場合 vol.2

麗子は美久のことを買っていた。まだまだ仕事としての成果は伸びしろが多分にあるものの、仕事への姿勢を買っていたのだ。

 

面接の時にも「この子は伸びる」と直感的に感じていた。「何がしたいか」という質問に美久は、希望業界でも希望職種でも希望業務でもなく、「お客様の為になることをしたい」と素直に答え、麗子はその答えと表裏無い表情を見た瞬間に採用を決めたのだ。

 

一方で、麗子は美久の奥底にある欲求についても、感じとっていた。この子の誰かの役に立ちたい欲求は、反面、誰にも嫌われたくないという恐怖心が極度に高いということの裏返しだということを…

 

ある日、麗子は美久を自宅に誘った。仕事の労いと称し、本音は美久の欲求を解放することが、目的であった。自分の影響により、誰かが変わることが、麗子にとってはまるで使命かのように思われたのだ。それは、かつては麗子も美久と同じように、周囲から見離されるのを極度に恐れ、それを避けるために仕事に邁進する時期があり、その恐怖心を正義が解放してくれたことへの恩返しのようにも思えた。

 

麗子の自宅は、みなとみらいに立つマンションの高層階にある。美久を促し部屋に招き入れると、美久はまずリビング全面に大きく広がる窓に映る夜景に興奮している。西側に目を移すと海が広がり、点在する船の灯りを、美久は遠く見つめている。小柄な美久を麗子は後ろから抱きしめるように肩に腕を回し、耳元で、

 

「いつまでも眺めていないで、ワインにしましょう…」

 

と囁く。美久が驚きを見せたかと思うと、麗子は何も無かったかのように、アイランドキッチンに戻り、シャンベルタンの赤ワインとバカラのワイングラスをリビングにあるローテーブルに用意する。まだ動揺している美久の視線を感じながらも、麗子は目をあわせず、チーズと生ハムをHERMESの小皿に盛り付け、リビングにまた戻る。

 

「どうしたの?」

 

と、何も気づいていないかのように、麗子が小皿を手渡すと、指と指が触れただけでも美久は顔を赤らめる。

 

「乾杯しましょ、あなたの今後の活躍に…」

 

と、麗子がワイングラス同士を軽く合わせると、高く上品な音色が、部屋に鳴り響いた…

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