【小説】社内恋愛

今時の社内恋愛をテーマにしたオムニバス小説

【社内恋愛】長瀬亜紀(25歳)の場合 vol.4

亜紀が漏らす元カレへの愚痴に、航平は亜紀が話やすいように合いの手を入れる。

 

「例えば?」

 

この合いの手で、亜紀は今まで誰にも語れなかった元カレへの不満を吐露していく。

 

「例えばでいうと、さっき航平は私がキャプテンで悩んでいることを、何も言わず聞いてくれたじゃない。でもね、あの人は人の話を聞かずすぐに答えを出しちゃうの…」

 

話をただただ聞いてくれている航平の表情がとても困惑しているように見える。本当は航平に告白したい、引き留めて欲しい一心で元カレの話をしたのだが、そう簡単には亜紀が思い描くシナリオにはなりそうもない…

 

「というと?」

 

と、航平がまた短く返すと、亜紀はまた自分の本意とは異なり、元カレの話を続けてしまう。

 

「私が、キャプテンで悩んでいることを相談しても、『じゃあ、辞めれば』とか言うんだよ。」

 

亜紀は自分が何を話しているのかももいわからなくなり、自分への苛立ちを航平にまで問い詰める。

 

「ねえ、どうしたらいいと思う?」

 

さっき煽ったお酒もいい感じに回ってきたのもあるのだろう、感情的になってきたところを、航平が冷静に制御する。

 

「一つ聞いていい?」

 

「うん…」

 

「亜紀はさあ、どうして悩んでいるの?俺から見ると、嫌で別れたので、悩むこともないように思えるけど…」

 

航平にそう突き付けられると、亜紀は改めて歯がゆさを感じた。それは航平にではなく、自分の気持ちをストレートに表現できない自分自身に対してだった。

 

航平の部屋は、6畳程の狭いスペースに、壁にテレビがあり、小さなローテーブルを挟み、ベッドが横たわる。ローテーブル横のクッションに座っていた亜紀はすっと立ち上がると、ベッドに腰掛ける航平を抱きしめてしまった。もう感情が理性を押さえることができず、何も考えずに行動に出てしまったのだ。

 

航平はびっくりしていたが、目に涙を浮かべている亜紀を見ると、拒絶することなく、航平も亜紀を抱きしめてくれた。亜紀は緊張からようやく解放され、心地いい時間が流れる。

 

そのまま数分が経っただろうか、航平が肩を揺らしてすすり泣く亜紀の顔を起こし、

 

「少しは落ち着いた?」

 

と声をかける。亜紀はまた航平の肩に顔を埋め、小さく、

 

「うん…」

 

と答えると、今度は航平から亜紀を強く抱きしめてくれ、

 

「亜紀、こういうのはどうかな?」

 

と囁く。

 

航平の肩に顔を埋め、頷き相槌を打つ。

 

「亜紀はその元カレときちんと別れ、その…俺と付き合うというのはどうだろうか…」

 

亜紀は自分の気持ちを表現できない悔しさと、そんな状況かで航平が同じ気持ちでいてくれた喜びで、もう顔を上げられず航平の肩に顔を埋めると、今度は大きく2回頷いた。

 

航平に顔を上げられると、亜紀の目にはまだ涙が溢れていたが、今度は笑顔で航平に微笑み返す。航平はそんな亜紀にそっとキスをした…

 

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