【小説】社内恋愛

今時の社内恋愛をテーマにしたオムニバス小説

【社内恋愛】内村航平(25歳)の場合 vol.9

相談というからには、亜紀は未練もあるのかなと思いつつ、航平は合いの手を入れる。

「例えば?」

自分で言うのもなんだが、航平は聞き手に回るのが得意だと自負している。

「例えばでいうと、さっき航平は私がキャプテンで悩んでいることを、何も言わず聞いてくれたじゃない。でもね、あの人は人の話を聞かずすぐに答えを出しちゃうの…」

亜紀が、元カレを「あの人」と呼ぶのが、過去の人と捉えているのか、親近感がまだあるのか、航平にはわからなかった。とにかくこの場は聞き手に徹した方がよさそうなのは明らかであり、

「というと?」

と、短く返す。航平はこの「例えば?」と「というと?」という合いの手で、女性との会話がたいてい成り立つことを経験から習得している。

「私が、キャプテンで悩んでいることを相談しても、『じゃあ、辞めれば』とか言うんだよ。」

亜紀はその時の憤りを思い出したかのように、顔を赤らめ、航平にまで問い詰める。

「ねえ、どうしたらいいと思う?」

お酒もいい感じに回ってきたのもあるのだろう、その質問の仕方はまるで、怒られているようにも感じる。

「一つ聞いていい?」

「うん…」

「亜紀はさあ、どうして悩んでいるの?俺から見ると、嫌で別れたので、悩むこともないように思えるけど…」

極論を突き付けると、亜紀は黙って泣いているように思えた。

大学生の一人暮らしの部屋だ。6畳程の狭いスペースには、壁にテレビがあり、小さなローテーブルを挟み、ベッドが横たわる。ローテーブル横のクッションに座っていた亜紀はすっと立ち上がると、ベッドに腰掛ける航平を抱きしめた。

航平はびっくりしたが、目に涙を浮かべている亜紀を見ると、そのまま受け入れるように、航平も亜紀を抱きしめた。

そのまま数分が経っただろうか、肩を揺らしてすすり泣く亜紀の顔を起こし、

「少しは落ち着いた?」

と声をかける。亜紀はまた航平の肩に顔を埋め、小さく、

「うん…」

と答える。航平は亜紀が愛おしくなり、今度は強く抱きしめ、

「亜紀、こういうのはどうかな?」

と亜紀に囁く。

亜紀も航平の肩に顔を埋めたまま、頷き相槌を打つ。

「亜紀はその元カレときちんと別れ、その…俺と付き合うというのはどうだろうか…」

一瞬亜紀の動きは止まったが、すぐにまた泣き出したのか、航平の肩に顔を埋め、今度は大きく2回頷いた。

航平が亜紀の顔を上げると、亜紀の目は赤く腫れまだ涙が溢れていたが、今度は笑顔で航平に微笑み返す。

航平はそんな亜紀にそっとキスをした…