【小説】社内恋愛

今時の社内恋愛をテーマにしたオムニバス小説

【社内恋愛】人の役に立ちたい…(夏目美久)

夏目美久。28歳。航平洋介と同じ人材紹介会社でキャリアアドバイザーをしている。不動産会社の事務職から転職し中途入社で今の会社に入社した。入社したのは2年前なので、入社時期でいうと航平たちと同時期にあたるのだが、短大を卒業して5年間不動産会社に勤務していたので、当然新人と一緒には扱われない。

 

転職をしたきっかけは、前職の不動産会社のブラックな体質が理由だった。残業時間も多かったが、美久にとっては、なによりもお客様を欺く姿勢が許せなかった。その会社だけではなく不動産業界の営業なら当たり前のことなのかもしれないが、治安、騒音、悪臭、近隣情報など法律で告知しなければならないギリギリの物件のマイナス面を伏せ、言葉巧みに何も知らないお客様にいいことばかりを言い、契約後は知らん顔、そうしないと売れないという理由で、それが当たり前となっていた。事務職である美久がいくら異を唱えようとも「だったらお前が売ってこいよ」と相手にもされない…。そんな体質に慣れることができず、むしろそんな体質に慣れてはならないという気持ちが強くなり、美久は退職を決意した。

 

今の会社に転職を決めたのは、転職活動としてこの会社に登録面接に来たのがきっかけだった。その際面接を担当したのが、今の上司でもあるキャリアアドバイザーの麗子だった。麗子は美久の転職理由をただただ聞く。そこには肯定や否定は何もなく、美久の思いを全て吐き出す為に、相槌があるだけだ。相槌と言っても、ただうなずくだけではなく、「例えば?」「というと?」など、美久がより詳しく吐き出す為の合いの手だけを絶妙なタイミングで入れてくる。美久はその合いの手だけで、自分の本音を吐き出し、そして整理してくれる気分になる。美久は単純に「キャリアアドバイザーってすごい!」と感激する。最後に何がしたいかを問われた美久は、希望業界でも希望職種でも希望業務でもなく、「お客様の為になることをしたい」と素直に答えた。担当するキャリアアドバイザーによっては、キャリアパスをきちんと描けていないと受け取るところだが、麗子は違った。

 

「転職先、うちの会社にしない?今ちょうど募集してるの。あなたなら喜んで来て欲しいわ」

 

美久は思いもしなかったので、少し戸惑ったが、この面接の短い時間だけでもこの人と一緒に仕事がしたいと思い、「私でいいんですか?是非お願いしたいです。」と即答。今まで冷静で客観的だった麗子もこの返答には笑顔となり、美久の入社が決まったのだ。

 

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