【小説】社内恋愛

今時の社内恋愛をテーマにしたオムニバス小説

【社内恋愛】芽生えてしまった恋心…(江口洋介)

そんな洋介にとって、美久は一緒に仕事をしやすいパートナーであった。クライアントから聞いた洋介の要望を否定することなく、洋介と一緒になって考えてくれる。美久はキャリアウーマンというタイプではなかったが、元来人の役に立ちたいという気持ちが人一倍強いのだろう。成績や評価に関係なく、ただただ人の役に立つということに一生懸命なのだ。それが洋介には心地よかった。航平と比較され、CAに疎まれ、心が折れそうになるが、美久と仕事をする時には、何にもとらわれない純粋な自分でいる気になれたのだ。

 

洋介は航平と美久の3人でよく飲みに行く。本当は美久と二人きりで飲みに行き、仕事のことをもっと語りたいと思ってはいたが、まだ実現はしていない。

 

その日も、仕事帰りに航平美久と3人で飲みに行った。金曜日ということもあって、お酒が進むと、美久は自分ではなく航平に甘えている。

 

「彼氏が欲しいよぉ〜、なんでできないのぉ〜、ねぇ航平なんでなのぉ〜」

 

お酒が大好きなわりに、けしてお酒が強くない美久は酔っぱらうといつもこうだ。洋介は「彼氏」という単語に敏感に反応し、いつしか美久を意識するとともに、ここでも航平に対しては嫉妬心を抱く。心の中では「お前には亜紀ちゃんという彼女がいるだろ」と何度も反芻するが、航平の平静な(美久に対して思い入れのない)表情を見ているその嫉妬心も安堵に変わるのだ。

 

「ねぇなんでなのぉ〜」

 

同じ話を繰り返す美久に対して、洋介も航平も慣れた様子でただただ相槌を打ち、ただただいなし続ける。

 

「もぉ帰りたくないよぉ〜」

 

これも、いつもの美久のセリフ。

 

航平も早く彼女と別れなよぉ〜」

「遠距離でうまくいってないんでしょ〜」

 

昨年秋に彼氏と別れた美久の愚痴を聞く度に、洋介は美久へ告白したい気持ちに駆られる。そうしないのは、やはり今のいい関係を壊したくない気持ちと、そもそも社内恋愛自体は良くないことだという罪悪感からだった。自分からは美久に告白出来ないが、美久から告白されたらどうするのだろう…そんな皮算用をしながら、美久のことをずっと見つめていた…

 

12時を回り、店を出ると、美久はもう歩けない状態。航平に体を預ける美久を横目に、タクシーを拾おうとすると、美久がまだ飲み足りないと言う。

 

「ねぇ、またうちで飲みなおそうよぉ〜」

 

と、これも毎度のセリフ…。金曜の夜に飲むと、横浜駅近くの航平の家か、綱島駅にある美久の家で飲みなおすことが増えてきた。美久はもし自分と二人きりで飲んだとしても、同じように自宅に誘うのだろうか…洋介はいつもより飲みすぎくらくらとする頭の中で、そんなシチュエーションを描きながら、タクシーに乗り込んだ。

 

f:id:nue0801:20170417115703j:image